第14回

坂下洋子さん(岩手県盛岡市)/NPO法人環境パートナーシップいわて理事

地域・人と人をつなぐ海岸再生林-岩手県釜石市

岩手県釜石市の地図

多くの方々が海岸林に思いを寄せ合い、協力して

会を重ねるごとに、たくさんの話題が広がっていきます。それぞれのメンバーが情報を共有しながら、それぞれの根浜海岸との関わりを思い出していきます。「ここさ山葡萄みたいなんで、砂浜さひろがってだ植物があったっけ」と語る根浜町内会の佐々木虎男さん。「50年先、100年先を視野に入れながら、一本でも多く松が育って、海岸林を形成してくれることを願い、片隅に参加させていただきます。」と“自然”と“会”それぞれに寄り添うコメントを残す加藤直子さん、実行委員会開催毎に出席いただき、住民目線に寄り添い、ご自身の立場から考え心を砕いてくださる、沿岸広域振興局農林部 災害復旧対策特命課長の菊池伸裕さん、いつも快く会場を提供してくださる宝来館女将の岩崎昭子さん等々、ここに紹介しきれませんが、それぞれの立場でそれぞれの思いを語り合う参加者の姿があります。情報を共有することで海岸林再生の思いは深まっていきます。

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変わりゆくふるさとの景観、心には…

かく言う私も根浜海岸も含めて周辺の自然からたくさんの恩恵を受けて育ったもののひとりです。祖母が足をグリグリしながら、巧みに掘り起こしてくれたたくさんの二枚貝(マロウド)、隣接する沼で取ってくれた食用蛙の大きなおたまじゃくし、田んぼの用水路に仕掛けたウナギのわな、野鳥の宝庫だった鵜住居川。赤ちゃんだった長女が泣き止まない時に何度も連れて行った根浜海岸…風を防いでくれるだけでなく、厳しい日差しを和らげてくれた海岸林、その下で食べたお弁当…とあげたらキリがありません。縁あって海岸林再生の実行員会に参加させて頂くことでパンドラの箱を開けてしまった感があります。

過去の姿とは全く違う景観になってしまった場所もあり、震災後何回かこの場所を訪れているのにもかかわらず、直視することができていませんでした。この会のみなさんの話に耳を傾け、この地域の良さを思い出しながら、その反面、津波の影響で変わった姿というよりは震災後、足を運ぶたびに、コンクリートとトラックと運び込まれた土とで、どんどん変わっていくふるさとの姿を見ながら、津波から町を守るものだから仕方がないと、見ないように自分の心を封じ込めていたことに気づかされたのです。我が家と実の母親も流され、自分自身も結果的に命からがら逃げていたと言う体験をしていることから、津波を防ぐためのインフラだとは十分に知っているつもりです。でも何かが違う、求めているものはそこにないと感じている自分がありました。肉体は守られても心は果たして守られるのだろうかと言う気持ちが拭い去れず、地域がこれまで大切にしてきた、自然の厳しさと優しさとに共存しつつ、その中で自然の恵みを享受するという営みの姿を感じることができないのです。

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人と人とのつながりで育む“地域継承”

この地域に、海岸林再生のジオラマ作りにも関わった鵜住居幼稚園があります。この園は、地域の方のアイデアとご尽力がきっかけとなり、地域の農家の方の田んぼをお借りして一年を通じて稲を育てた経験のある幼稚園です。この経験の中での収穫はお米だけでなかったようです。体験を通じての地域との関わりが、園児のみならず、地域の高齢のお米生産者の方にも一つの流れをつくったらしく、「もっと、自分だちも、がんばんねばねぇな」という言葉が生まれたというエピソードもお聴きすることができました。また、園児たちの中には、クリスマスのサンタさんへのお願いが「新米をください」ということもあったり、正月の時期には、その米の収穫後の藁を使って、しめ縄を作ったりと、自然の力を媒介にした人と人との繋がりの中で、継承されていくものがあると感じました。
この営みを今回、海岸林を育て、見守っていくという流れの中で育んでいきたいというのが委員会の柱のようです。言葉で伝えるだけでは伝えきれない“地域継承”への力を、海岸林の植樹、育成を通じての人と人との繋がりから作っていこうということです。

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後方支援する方々

委員の一人NPO法人環境パートナーシップいわての副代表、佐々木明宏さんはこう話します。「私たちは、今世紀末までに炭素ゼロ、化石燃料ゼロを目指すという実に息の長い活動を模索しています。そうすると、“私の思い”だけでなく、担い手が交代しながら、“私の思い”を遠く手の及ばない先の世代にどうつなげていくかを考えていかなければなりません。多くの人が集まり、地域としてその場所を楽しみ慈しみ活用しながら、結果的に守られていく、そのようなあり方にヒントがあるのではないかと思います。もしかすると、鹿踊りや虎舞などの伝承芸能の伝承にもそのヒントがあると思います。今回出されたクロマツなどの里親に預ける取り組みの中で、多くの人たちや子ども達と一緒に活動を広げていくことができます。皆さんのご苦労をその先につなげるよう心を砕きたいと思います。」

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ここでもう一つ忘れてはいけない人と人とのつながりがあります。この植樹祭が単なる一過性の行事に終わらないために、かげながら支える釜石森林組合の存在です。今回のことに始まるわけではなく、木を育む活動の陰の様々な場面で、釜石森林組合さんのバックアップがあることを今回初めて知りました。植樹された木がその土地にしっかり根付くように土壌の確認、苗木を移動してからの見守りと採算性の合わないような場面でも力をいただいているということが、今回の釜石森林組合参事である高橋幸男さんへの取材で分かったのです。

大津波で組合長以下関係者の被災・壊滅した組合事務所の復旧と共に、55㌶にも及ぶ震災で発生した海岸防災林を含めた山林火災後の管理・復興住宅などへの地元材の多用、若手林業者の育成などなど、積極的な活動を進めている状況がありました。海岸林の植樹祭についても季節的な条件下での可能性・技術的な要件を共に考えています。

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時間をかけて

このように、少なくともこの地域にあっては、縦のつながりのみならず、横の連携の中で人と人とがつながってつくり育む海岸再生林の姿があると感じています。もしかすると海岸再生林を通して地域がつながっているとも言えるのかもしれません。また震災を経験しての復興はインフラのようなハード面のみならず、人の心をつなぐソフト面での復興にもより時間をかけていく必要があると受けとめています。

自然と共存しながら作り上げてきた地域の営みは、時間をかけて作り上げてきたものゆえに、時間をかけて取り戻していく覚悟が必要なのかもしれません。

最後にこうして取組を支援してくれている国土緑化推進機構にも今後の末永い応援をお願いして筆をおこうと思います。

坂下洋子さん
NPO法人環境パートナーシップいわて理事