第12回

岩崎昭子さん(岩手県釜石市鵜住居町)/旅館「宝来館」女将、佐々木虎男さん(岩手県釜石市鵜住居町)/「根浜ハマボウフウ研究会」会長

クロマツ、ハマボウフウ、ハマナス……、海岸の植生を取り戻し、箱崎半島全体でラグビーW杯の観客をもてなしたい

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根浜海岸の植生回復をめざす「根浜ハマボウフウ研究会」

しかし、津波の後、2年たってもハマボウフウが芽を出すことはありませんでした。なじみ深いハマボウフウをもう一度根浜で見たい、さらにハマボウフウを地域の料理にも使ってみたい、岩崎さんはそんな思いで、海岸だけでなく、鵜住居川下流などでハマボウフウを探し続けました。すると、2013年秋、根浜からほど近い片岸町で、ハマボウフウが生えているのを見つけたのです。片岸町は同じ大槌湾に面していて、根浜の北側の地域です。津波によって押し流された根浜海岸の砂は片岸に堆積しているとも言われ、環境が似ているのか、ハマボウフウは青々と茂っていました。

岩崎さんはこのハマボウフウを持ち帰り、すぐ佐々木さんに報告しました。以来、佐々木さんを中心としたハマボウフウ研究会が、試行錯誤して適地を探し苗を移植して増やし、600株ほどまで増えました。

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佐々木さんは「おれ一人にできることじゃねえ」とぶっきらぼうに言います。研究会の活動は、元「宝来館」従業員で、震災後は一般社団法人「三陸ひとつなぎ自然学校」を立ち上げた伊藤聡さんやボランティアによって支えられています。夏の草取りにはたくさんのボランティアが参加しました。「震災前は身の回りの自然はあるのが当たり前だったけれども、山に木がなくなれば人は生きていけなくなるし、自然はまわりまわって人間を助けてくれる。根浜に自然を取り戻すのはおれたちの役目なんだ」と佐々木さんは言います。根浜地区では防潮堤の復元工事が続いており、ハマボウフウは工事終了後に根浜海岸に植え替える予定になっています。

箱崎半島の山と海で世界中をもてなしたい

震災のあと、日本中、世界中の人たちとつながりながら旅館の再建、地域の再生に取り組んできた岩崎さん。思い描く根浜再興構想は海岸にとどまりません。「三陸の特徴は海と背後の山が近く、それぞれの集落の人たちが行き来し支え合っていることです。箱崎半島全体で世界中からのお客さんをもてなし、自然や文化を感じてほしいんです」と語ります。その一つとして掲げているのは「箱崎半島アートの森構想」です。観光客が民家に泊まり地元の暮らしを楽しむ「民泊」の仕組みを使って根浜地区を「民泊村」にし、世界からのアーティストやミュージシャンを受け入れたいと考えています。アーティストが箱崎の山に作品をつくり、根浜を訪れるアート好きな人たちは山を散策しながら、アーティストの作品と三陸の山と海を愉しむことができる……、そんな空間を思い描いています。

岩崎さんの構想の出発点となったのは、2014年に宝来館の裏山に完成した根浜地区の木製避難路<絆の道>でした。岩崎さんの発案で釜石地方森林組合がボランティアで施工したものです。消防団員が車椅子で避難した人を助けようとして亡くなった事例があったことから、車椅子でも速く安全に避難できる手段が欲しいと同組合に相談し、実現させました。釜石市を支援するUBSグループや国内の企業などのべ400人のボランティアが1年かけて160メートルにわたりスギの板のなだらかなレールにしました。

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この避難路が安全に使えるよう、草取りやレールの整備などの作業のために、今も東京からボランティアがやってきて、「手をかけるたびに避難路への愛着が増す」と口々に言います。そんな姿を見ながら岩崎さんは、海だけでなく山の持つ魅力や可能性を強く感じるようになりました。さらに、2015年夏、半島の突端部分が環境省の「みちのく潮風トレイル」のコースの一部として設定されたことも、後押ししました。トレイルコースの整備にも、企業や大学のボランティアがかかわり始めており、地域の人とソトの人がいっしょになって半島の魅力を打ち出す取り組みになろうとしています。

そして、やはり箱崎半島の玄関口は根浜海岸です。岩崎さんや佐々木さんは、ハマボウフウだけでなく、震災後に芽を出したクロマツも増やしています。岩崎さんは「東日本大震災から5年たって、ますます根浜のマツの価値は高まっている」と言います。それは、「三陸ひとつなぎ自然学校」(さんつな)の伊藤さんらが重機を入れずボランティアを集めて人力でがれきを撤去し、がれきの下のマツを守ったからです。「さんつなや根浜の人たちが守ったマツには震災後の物語がまだまだ続いていきます。その物語を世界中の人たちと分かち合い、根浜の魅力を伝えていきたいと思います。」

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岩崎昭子さん 「宝来館」女将
佐々木虎男さん 元漁師、「根浜ハマボウフウ研究会」会長