レポート | 投稿日: 2015.11.26

11月8日(日)岩手県久慈市で開催した「岩手の海岸・緑の再生シンポジウム2015」の報告

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開催に当たっての主催側の思い

岩手県はリアス式海岸のため、平地部が少なく、もともと海岸林の林帯幅も狭く小規模なものが多い状況にあります。こうした中で、現在、市街地のかさ上げ、防潮堤整備、道路の整備等の工事が狭いエリアに集中し、地域の住民も大変不便な生活を強いられていますが、一方で、今後海岸林の盛土工事、再生復興が急ピッチで進むと考えられるところです。こうした中で、震災前に海と住民の生活を優しく包み込んでくれた海岸林の松の復興に思いを強くする住民が動きだしました。

こうした状況に鑑み、地元の住民の皆さまに、これから本格化する岩手の海岸林再生に目を向けてもらい、住民の皆さまができることや、地区外・都市部の企業、NPOなどとの協働について考える題材を提供することなどを目的に、シンポジウムを開催しました。

現地視察

午前中は久慈地区外中心に約20名が参加してエクスカーション(現地視察会)を実施しました。
最初に、岩手県で最もまとまった海岸林があった野田村の前浜地区(10ha強)と山村地区を視察しました。時折小雨も降りましたが、風は強くありませんでした。

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現在は防潮堤の工事が進められているところ。この防潮堤の陸側を盛土して海岸林を整備する。盛土用の土は復興道路のトンネル掘削に伴う土砂なども使用するとのこと。

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ここで仮設住宅の男衆が、被災した松などを使用して木工品を製作して、その収益の一部を「のだ千年の松」に寄付している。

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シンポジウム

シンポジウムは、久慈地区合同庁舎大会議室にて行われました。午後1時から5時までの長丁場でしたが、県、地元市町村、森林管理署支署など官公庁関係者、地元の住民の皆さまなど90名近くの参加があり、特に20代・30代の参加者も多くみられ、熱心に聞いていました。会場後方にパネルや地元関係者からお借りした震災前後の写真も展示しました。

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開会挨拶

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シンポジウムは、主催者を代表して国土緑化推進機構 梶谷専務理事から地域の海岸林の役割他県の事例、地元の思いなどの報告をいただく中で、何ができるかを皆様に考えていただき、このシンポジウムを契機に海岸林再生が加速されることを祈念する旨の挨拶でスタートしました。

 

基調講演

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竹田純一氏(東京農業大学農山村支援センター)からは、全国の地域の組織が主体となった環境整備・自然活用による活動を通じて、地域・コミュニテイづくりの事例の紹介がありました。民間参画の海岸林の再生の大いに示唆に富むものでした。

  • 海岸林再生は、コンクリートの防潮堤とは異なり、自然再生の範疇のものである。その再生は、里山のように地元の利用など念頭に手をかける方法と、自然に任せる方法に大別できる。どのような姿に再生し活用していくかは、地元含めた関係者で考えていくことも大切であること
  • エクスカーションで視察した野田村の山村集落において、目に飛び込んできた柱2本と横1本のコ字型の鳥居と思しきもの、葺いたばかりの屋根に土を盛り草本を生やした茅葺の家など、縁起が良いとされる鳥を呼ぶかのような情景は、歴史の原点を感じたとのこと
  • また、地域の名物特産を創造することや差別化を図るためには、とことんこだわることが重要で、民宿などでは食材は地元産キノコ、雑魚をメインにして多様な料理をアレンジするとか徹底した対応が出るようにすること

などの話が心に残りました。

 

基調報告

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「海岸林の働きとその再生に当たって知っておきたいこと」

全国の海岸松林や津波被害の状況の写真を基に、海岸林の役割、管理の重要性、津波軽減の機能などをわかりやすく報告いただきました。
この中で、マツは深根性であるが、地下水位の低い箇所で松の根が下に伸びていなかったためにマツは浅根性と思っている人もいるが、地下水位の低い箇所では他の樹種でも同じのように根深く伸びないこと。しかし、盛土すれば地下水位が深くなるので、マツの根が下に伸びることができるとのことでした。
また、林帯幅の広い海岸林の中に設置されたゴルフ場や原子力関係施設において、施設の保全や機能維持のために海岸林の存在が欠かせないことから、その施設管理者などが施設周囲の海岸林の保全に尽力し、高い機能を有する海岸林となっている事例紹介がありました。海岸林は植栽するだけでなく、その後の長期の管理が重要であることを感じました。
最後に、宮城県南部の平地海岸林と異なり、岩手県はリアス式海岸で地形条件などから海岸林は狭い幅の林帯幅しかとれない。しかし、岩手海岸は風等の気象条件などは相対的には恵まれており樹高の高く、資の高い海岸林の再生は可能である。そのためには、造成だけでなくその後の保育などの手入をしっかり行い、海岸林と長いお付き合いをしてくださいとのメッセージがありました。

 

岩手県からの報告

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千葉幸司氏(県北広域振興局 林務部森林保全課長)からの報告がありました。岩手の海岸林は、過去にも津波の被害を受けながら、その都度人々の努力で蘇りました。昭和8年の津波では人命、家屋にも大きな被害を与えましたが、当時の調査で、海岸林の存在によって家屋への被害が軽減された事例が多くあったことなどから、集落内の用地買収などをしながら海岸林造成を積極的に進めたとのことでした。また、造成した海岸林(防潮林と呼ぶ)の保護管理を目的に、地元住民による防潮林保護組合が各地に設立され、巡視や草刈りなどを実施していました。特に、野田村前浜の防潮林は10haと規模も大きく、設立当時は地元保護組合員数も300人と県内最大規模とのことでした。戦時中は、この海岸林内で薯栽培をして食糧難に一役かったそうです。こうして行政と地元の協働によって海岸林が守られ、人々のために役立ってきました。
最後に、今は防潮堤工事に追われていますが、今後、地元の方の協力を得ながら再生できればと思っていますと報告を終えました。

 

他県事例報告

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木村健太郎氏(特定非営利活動法人 宮城県森林インストラクター協会 企画部長)からは、まず“熊よけ”の方法を実演。現地視察の際に採取したイタドリの葉を取り出して、軽く握った拳上に載せて、空いたもう一方の手の平で上から叩いたところ鉄砲のようなパンという音が場内に響き渡る―。木村氏は、冗談交じりに、「この遊びは手が痛いという欠点があるが、イタドリだから痛みが取れるのです。このようにして子供たちに植物の名前を教えていきます」と講演をスタートしました。

その後、企業との協働による森林整備の取組事例の要点を報告しました。 企業等外部との協働の成功のポイントは、目的の明確化、独創性とアイデア、長期的発展的計画の作成、子どもたちの参画する体験型行事を取り入ることであると締めくくりました。
なお、参加者全員にあらかじめ山で採ってきたコブシ、ヤマブキなどの細枝の入った袋を配り、これでやじろべえやトンボとか作ってみてくださいと言って報告を終えました。

 

参加者への呼びかけ
~地元団体及び応援団の想いを語る。参加企業からの取組発表

参加者への呼びかけを3名の方にお願いしました。
まず、地元団体として坂本久美子氏(のだ千年の松プロジェクト 代表)が登壇しました。

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「山の中で民宿を営み、震災発生後は被災者支援にかかわる中で、被災者の心に寄り添うことの大切さを痛感した。また『だらすこ工房』に仮設住宅で肩を落としていた男性が集合して、震災後流木化し邪魔者扱いされた松を使って木工品を加工する姿を見て、北東から夏に吹き付ける“やませ”から村を守り続けてきた海岸松林の存在を改めて考えさせられた。震災の記憶を風化させないためにも、昭和8年の津波による災害から住民が力合せて再生した海岸林を、また地元力で復活させたいとの想いを強くした。また、震災後に帰村した青年も海岸林再生の輪に参加することを決め、次世代につなぐ道筋もついてきた。これからの植樹活動が村の宝と言われる日を夢見て、一歩づつ進んでいきたい。」と思いを発表されました。

 

次に、DCMホーマック株式会社 CSR委員会マネジャーの清田宜弘氏から、カミネッコンという手法で高齢者や幼稚園児たちによる苗木作り、宮城県の海岸林での園児たちの植樹活動の紹介がありました。

1108_15社員も店舗で苗木づくりをするなど、直接参加を基本にしているとのことでした。岩手県も当社の発祥の地の1つであり、岩手県の海岸林の復興に協力したいとの暖かい応援の言葉が、参加者の心に響いていました。

 

3番目に、震災直後に岩手に支援活動に参加し、その後も交流を続けている茜谷有紀氏が登壇しました。

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「名古屋から震災後に野田村に入り支援活動する中で、岩手の人々、食材などが好きになり、その後も度々野田村、久慈に来て地元の方々交流を図っています。海岸林の再生は時間のかかる活動ですが、皆様と一緒に頑張っていきたい」と話をして、この想いを歌に載せて、参加者の心に海岸林再生への気持ちを染み渡らせてくれました。
型くるしい会議室で歌を披露するのは初体験とのことで、登壇直後は過度に緊張していました。

会場の参加者からの要請で、坂本久美子氏の話にもあった青年の大沢航平さんが急遽登壇して、「先輩たちからの知恵や力を自分のものにして、更に次世代に引き継いでいきたい」旨の抱負を語ってくれました。

 

閉会挨拶

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NPO法人環境パートナーシップいわて代表理事 野澤日出夫氏から、登壇いただいた講師の方々へのお礼と、このシンポジウムを契機にして心の復興に欠かすことができない海岸林を含めて地域の豊かな環境の再生に向けて、私たちはできることを少しずつでも進めていかなければならないと思っていますと、シンポジウムを締めくくりました。